中小企業が抱える事業承継問題
事業承継には二つの観点があります。
一つは経営(経営ノウハウなど)の承継、もう一つは事業用資産(自社株式・事業用の不動産等)の承継です。
日本の多くの中小企業は、経営者の個人資産の大半を自社株式等の事業用資産として投入しているため、経営に関する事と資産に関する事が互いに関連し影響を及ぼし合っています。
従来は経営者の子が事業を承継するケースが多かったのですが、現在は「後継者不在」という事態を招いていることも少なくありません。
また、親族内に後継者がいたとしても、次のような問題が生じていました。
- 自社株式等の集中的承継を妨げる遺留分の制約
- 事業承継の際の資金調達の困難性
- 相続税・贈与税の納税資金の確保の困難性
承継後の安定した経営のための経営権集中の観点からは、自社株式等を後継者に集中して承継させるのが望ましいのですが、これらを親族内後継者へ集中すると、遺留分の侵害が起こるため、それが困難となっていました。
後継者以外の株主から自社株式を買い取って後継者の持ち株比率をアップしようとする場合などに、多額の資金が必要となります。
自社株式等を生前贈与や遺言によって後継者に承継させようとすると、業績が好調な会社ほど贈与税や相続税が高くなり、その納税資金を確保することが大きな課題となります。
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)
この法律では、事業承継における上記の3つの問題への対策として、次のような措置が定められました。
- 遺留分に関する民法の特例(平成21年3月1日施行)
- 経営の円滑な承継のための資金融資制度
- 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予の特例(いわゆる事業承継税制)
遺留分に関する民法の特例
自社株式等の承継における遺留分の侵害の問題に対しては、「贈与株式等を遺留分算定基礎財産から控除できる」との特例(除外特例)が設けられました。
これにより、先代の経営者から後継者に贈与された自社株式等の事業用資産について、遺留分減殺の対象から除外することができるようになりました。
また、後継者の努力で自社株価値が上昇したにもかかわらず、相続財産全体の評価額が増えた結果、後継者以外の相続人の遺留分が増えてしまう問題に対して、「遺留分算定の基礎財産に算入する贈与株式等の評価額をあらかじめ固定できる」との特例(固定特例)が設けられました。
これにより、後継者の経営努力で自社株価値が上昇した場合の後継者の貢献分を確保することができるようになりました(ただし、自社株価値が下落した場合には後継者以外の相続人の遺留分が増大するというリスクも負います)。
経営の円滑な承継のための資金融資制度
資金調達の困難性の問題に対しては、「中小企業信用保険法の特例」と「日本政策金融公庫法の特例」が設けられました。
これにより、事業承継に必要な資金を借り入れるための保証の枠が従来枠とは別に設けられ、また、融資の対象が後継者個人にまで広げられました。
非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予の特例(いわゆる事業承継税制)
相続税・贈与税の負担に関する問題に対しては、「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予の特例」が設けられました。
これにより、後継者である相続人等が、相続等により、非上場株式等を被相続人(先代経営者)から取得し、その会社を経営していく場合には、その後継者が納付すべき相続税のうち、その株式等(一定の部分に限ります。)に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予されます(なお、この特例は、平成20年10月1日以降の相続等に係る相続税について遡及して適用されます。)。
また、後継者である受贈者が、贈与により、非上場株式等を親族(先代経営者)から全部または一定以上取得し、その会社を経営していく場合には、その後継者が納付すべき贈与税のうち、その株式等(一定の部分に限ります。)に対応する贈与税の全額の納税が猶予されます(なお、この特例は、平成21年4月1日以降の贈与に係る贈与税について適用されます。)。





