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相続の基礎知識

相続に関する基礎知識について解説しております。「相続の仕組みを知りたい」という方の参考になれば幸いです。

中小企業の事業承継

中小企業が抱える事業承継問題

事業承継には二つの観点があります。

一つは経営(経営ノウハウなど)の承継、もう一つは事業用資産(自社株式・事業用の不動産等)の承継です。

日本の多くの中小企業は、経営者の個人資産の大半を自社株式等の事業用資産として投入しているため、経営に関する事と資産に関する事が互いに関連し影響を及ぼし合っています。

従来は経営者の子が事業を承継するケースが多かったのですが、現在は「後継者不在」という事態を招いていることも少なくありません。

また、親族内に後継者がいたとしても、次のような問題が生じていました。
(続きを読む…)

相続開始後にすべきこと一覧

相続開始後にすべきこととして、例えば次のようなことがあります。

なお、で示してあるものは、専門家にご依頼になった方がよいかと思われるものです(当事務所でもご依頼を承ります。他の専門家とのネットワークを活かして手続きにあたらせていただきます。)。

□ 市区町村役場に、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡届を提出します。

□ 世帯主が死亡した場合、市区町村役場に、世帯主が死亡した時(世帯主の変更があった日)から14日以内に、世帯変更届を提出します。

□ 市区町村役場に、国民健康保険の届出をします。

□ 市区町村役場に葬祭料支給の申請を、社会保険事務所に埋葬料支給の申請を、労働基準監督署に葬祭料支給の申請をします。
  被相続人が生前に「国民健康保険」「健康保険(社会保険)」「労災保険」に加入していたときは、葬儀にかかった費用や埋葬料などに対して一定の補助が受けられます。

□ 復氏をしたい(婚姻前の氏に戻りたい)場合、市区町村役場に、復氏届を提出します。

□ 旅券センターにパスポートを、公安委員会(警察署)に運転免許証を返却します。
  これらについては、更新手続を行わなければ自然消滅となりますが、悪用されるのを防ぐためにも返却しておいた方がよいでしょう。

□ 勤務先に、死亡退職届(退職金や弔慰金が支給されます。)、扶養控除異動届(配偶者や子などが死亡した場合。扶養手当の変更や健康保険証の変更などが行われます。)を提出し、身分証明書・社員バッジ・制服・重要な書類などを返却します。

□ 生命保険会社や郵便局に、保険金支払の請求をします。

 市区町村役場に国民年金の届出を、社会保険事務所に厚生年金の届出をします。
  年金を受給するためには、届出が必要です。

□ 勤務先に、共済年金の届出をします。
  年金を受給するためには、届出が必要です。

□ クレジット会社に、クレジットカードの退会届を提出します。

□ 被相続人が所属していた会に、退会を通知します。

□ 遺言書がある場合、家庭裁判所に、遺言書の検認を申し立てます(ただし、公正証書遺言の場合は不要です。)。

 相続放棄または限定承認をする場合、家庭裁判所に、相続放棄または限定承認の申述をします。
  申述の期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。

 金融機関に、預貯金の名義変更(解約)を届け出ます。

 遺産分割協議成立後、遺産分割協議書を作成します。

 遺産分割協議成立後、法務局に、不動産の名義変更(相続登記など)を申請します。

 遺産分割協議成立後、陸運事務所に、自動車の名義変更(移転登録)を届け出ます。
  届出の期間は15日以内とされていますが、これを過ぎても罰則はありません。

 遺産分割協議成立後、特許庁に、工業所有権(特許権・商標権・意匠権・実用新案権)の名義変更を届け出ます。

□ 遺産分割協議成立後、NTTに、電話加入権の継承届を提出します。

□ 遺産分割協議成立後、ゴルフ場経営会社に、ゴルフクラブ会員権の名義変更を届け出ます。
  なお、ゴルフクラブ会員権の相続が認められるかどうかは、当該ゴルフクラブの会則・規則によります。
  また、名義変更料を請求される場合もあります。

□ 遺産分割協議成立後、証券会社などに、有価証券の名義変更を届け出ます。
  具体的には、株式については株主名簿の名義書換、記名社債については社債原簿の名義書換、出資証券については社員名簿の名義書換が行われます。
  なお、無記名社債及び公債については、名義変更を届け出る必要はありません。

□ 遺産分割協議成立後、水道局などに、公共料金引落口座の名義変更などを届け出ます。

 税務署に、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告をします。

以下は、主に、被相続人が生前に事業を営んでいた場合に必要となる手続です。

□ 債務者に、債権者変更を通知します。

 税務署に、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、所得税の準確定申告をします。

 官公署に、営業許可の名義変更事業の廃業を届け出ます。
  届出の期間は、営業内容によって異なります。

 法務局に、相続開始後6か月以内に、根抵当権について指定根抵当権者(指定債務者)の合意の登記を申請します。
  この手続を行わなかった場合には、根抵当権の元本が相続開始時に確定したものとみなされます。

 会社形態の場合、法務局に、役員が死亡した時から2週間以内に、役員変更登記を申請します。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは

贈与税の課税制度には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に当てはまる場合には相続時精算課税を選択することができるとされています。

相続時精算課税制度は、贈与時に贈与財産に対する贈与税を納め、その贈与者が死亡した時に、その贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に算出した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除することにより、贈与税・相続税を通じた納税を行うものです。

つまり、実質的には、贈与財産について贈与税ではなく相続税を支払う(相続税がかかるほどの財産を有していなければ相続税も支払わない)という制度です。

適用対象者

贈与者(贈与をする人)が65歳以上の親、受贈者(贈与を受ける人)が贈与者の推定相続人(現状のままで相続が開始された場合に相続人となるはずの者)である20歳以上の子であること。

なお、子には、代襲相続人を含みます。

また、年齢は、贈与の年の1月1日現在のものです。

適用対象財産など

贈与財産の種類・金額・贈与回数に制限はありません。

税額の算定

  1. 贈与税額の算定
  2. 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、選択をした年以後、相続時精算課税に係る贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、その贈与者(親)から1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を算出します。

    その贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額は2,500万円です。ただし、前年以前において既にこの特別控除額を控除している場合には、残額が限度額となります。)を控除した後の金額に、一律の20%の税率を乗じて算出します。

  3. 相続税額の算定
  4. 相続時精算課税を選択した人にかかる相続税額は、相続時精算課税に係る贈与者の相続時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続などにより取得した財産の価額とを合計した金額を基に算出した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。

    その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。

    なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額とされています。

適用手続

相続時精算課税を選択しようとする受贈者(子)は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に、納税地の税務署に「相続時精算課税選択届出書」を、受贈者の戸籍謄本などの一定の書類と共に贈与税の申告書に添付して提出することとされています。

この選択は、受贈者である兄弟姉妹が各々、贈与者である父・母ごとに選択できます。

また、最初の贈与の際の届出により、贈与者の相続時まで継続して適用されるので、途中で暦年課税に変更することはできません。

相続税

相続税とは

相続税とは、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に、その超える部分(課税遺産総額)に対して課税される税金のことをいいます。

相続税の申告・納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。

正味の遺産額と基礎控除額

相続税は、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合にしか発生しません。

つまり、正味の遺産額が基礎控除額以下であれば、相続税を支払わなくてもよいということです。

基礎控除額の算定式は、次のようになります。

基礎控除額=5,000万円+1,000万円×法定相続人の数

したがって、例えば、ある人が死亡し、配偶者と子3人が相続人であった場合、「基礎控除額=5,000万円+1,000万円×4=9,000万円」となるので、正味の遺産額が9,000万円以下であれば、相続税はかからないことになります。

相続税の税率

課税標準 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
3億円以下 40% 1,700万円
3億円超 50% 4,700万円

例えば、課税標準5,000万円の場合(他の控除はないものとします。)、「相続税額=5,000万円×20%-200万円=800万円」となります。

相続税額算定の際の控除・軽減

相続税額を算定する際に、控除や軽減を受けられる場合があります。

例えば、配偶者の税額軽減の制度というものがあります。

配偶者の税額軽減の制度とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した遺産額について、「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは相続税がかからないという制度です。

この他に、暦年課税分の贈与税額控除、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除といったものがあります。

相続税の申告・納税

相続税の申告・納税は、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に必要となります。

正味の遺産額が基礎控除額以下であれば、申告も納税も不要です。

相続税の申告・納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。

申告書の提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。

相続税は、金銭で一度に納めるのが原則です。

ただし、何年かにわたって金銭で納める「延納」と、相続などで取得した財産そのもので納める「物納」という特別の制度もあります。

所得税の準確定申告

準確定申告とは

所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について計算し、その所得金額に対する税額を算出して、翌年の2月16日から3月15日までの間に申告・納税することになっています(確定申告)。

しかし、年の中途で死亡した人の場合には、相続人または包括受遺者が、1月1日から死亡した日までの所得を計算し、その所得金額に対する税額を算出して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告・納税しなければなりません。これを、準確定申告といいます。

準確定申告が必要な場合

「準確定申告が必要な場合」は、「確定申告が必要な場合」と何ら変わるところはありません。

つまり、生前に確定申告が必要であった人について、準確定申告も必要になるということです。

例えば、年の中途で死亡した人が、生前に事業収入や不動産収入を得ていたなどといった場合には、準確定申告が必要となります。

年の中途で死亡した人がサラリーマンであった場合、源泉徴収及び年末調整によって納税が完了しますので、特別な事情のない限り、準確定申告は不要です。

準確定申告書の提出先(納税地)

準確定申告書の提出先は、年の中途で死亡した人の住所地を管轄する税務署です。

相続人の不存在

相続人の不存在とは

相続人の不存在とは、ある人について相続が開始したにもかかわらず、その相続人のあることが明らかでないことをいいます。

相続人のあることが明らかでない場合、相続人を捜し出す手続と相続財産の管理・清算を行うための手続が、併行して進められます。

相続人の不存在の場合の手続

相続人の不存在の場合の手続は、次のように進められます。

  1. 相続人のあることが明らかでない場合、相続財産は法人となります(「相続財産法人」と呼びます。)。
  2. 利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、相続財産法人の代表者となります。
  3. 家庭裁判所は相続財産管理人選任の公告をします。
  4. 相続財産管理人選任の公告後2か月間は、清算を開始しないで、相続財産を保存しながら相続人が出現するのを待ちます。
  5. 2か月の間に相続人が出現しなかったときは、相続財産管理人はすべての相続債権者及び受遺者に対し2か月を下らない期間を定めて、その期間内にその請求の申し出をなすべき旨を公告します(債権申出公告)。
  6. 債権申出公告期間が満了すると、相続財産管理人は相続債権者及び受遺者に対して弁済を開始します。
  7. 債権申出公告期間が経過しても、なお相続人が出現しないときは、相続財産管理人または検察官の請求によって、家庭裁判所が6か月を下らない期間を定めて、相続人があるならばその期間内にその権利を主張すべき旨を公告します(最後の相続人捜索の公告)。
  8. 最後の相続人捜索の公告期間満了によって、法律上、相続人のないことが確定します。この後、真の相続人が現れたとしても、その者は権利を行使することができません。

相続人のないことが確定した後の手続

相続人のないことが確定した後の手続は、次のように進められます。

  1. 特別縁故者に対する相続財産の分与
  2. 相続人のないことが確定すると、特別縁故者に対する相続財産の分与が行われます。

    特別縁故者に対する相続財産の分与とは、相続人のないことが確定し残余財産がある場合に、被相続人と生計を同じくしていた者や、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者に、残余財産の全部または一部を与える制度をいいます。

    相続財産の分与を希望する者は、最後の相続人捜索の公告期間満了後3か月以内に、家庭裁判所に特別縁故者に対する相続財産分与の申立てをしなければなりません。

    申立てが認められれば、相続財産の分与が行われます。

  3. 共有持分の他の共有者への帰属
  4. 共有者の1人が死亡してその者に相続人がないときは、その者の持分は他の共有者に帰属します。

    当然に帰属するので、①のように家庭裁判所へ申し立てる必要はありません。

  5. 相続財産の国庫への帰属
  6. 1、2を経た後、なお残余財産がある場合には、その相続財産は国庫に帰属します。

遺産分割協議

遺産分割協議とは

相続人が2人以上あるときは、相続財産は相続開始と同時に相続人全員の共同所有となりますが、この共同所有関係は暫定的なものにすぎません。

したがって、その後、多くの場合、相続人の間でどの財産を誰のものにするか(遺産分割)について協議が行われますが、この協議を遺産分割協議といいます。

遺産分割協議は、持ち回りでも構いませんが、必ず相続人(包括受遺者、相続分の譲受人を含む。以下、同様。)全員が参加して行わなければなりません。

一部の者が除外された場合、その遺産分割協議は無効です。

なお、遺言で遺産分割の方法が指定されているなどの場合には、遺言が優先されますので、遺産分割協議はできません。

遺産分割協議の時期

遺産分割協議に期限はありませんので、遺言で遺産分割が禁止されているなどの特別な事由がない限り、いつでも遺産分割協議をすることができます。

相続人の1人から遺産分割協議の申し出があれば、他の相続人はこれを断ることはできません。

遺産分割の方法

遺産分割協議は、多数決ではなく全員の同意によって行います。

具体的な遺産分割の方法は、現物分割でも換価分割でも代償分割でも、どのような方法でも構いません。

また、法定相続分に従う必要もありません。

相続分は、各自がそこまで権利を主張できるという意味を有しているにすぎないからです。

したがって、協議によって、相続人中の一部の者の取得分をゼロとすることも可能です。

ただし、遺言で相続分が指定されている場合には、遺言執行者がいないときにのみ、指定された相続分に従わない分割をすることができます。

遺言執行者がいるときには、相続人は遺言の執行を妨げるような行為をすることはできないとされているため、指定された相続分に従わない分割をすることはできないからです。

なお、相続債務は、遺産分割の対象とはならないと解されています。

つまり、相続人間の協議によって相続人中の1人に債務を帰属させたとしても、このような協議は、債権者の同意がない限り債権者に対しては主張できないということです。

債権者との関係では、債権者の同意がない限り、債務は、各相続人に相続分に従って相続されたものとみなされます。

遺産分割協議をする際のその他の注意点

  • 相続人の中に行方不明者(不在者)がいる場合
  • このような場合、遺産分割協議をするためには次のような方法をとることが考えられます。

    第一は、家庭裁判所に「不在者財産管理人選任」の申立てをする方法です。

    不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て不在者のために他の相続人と遺産分割協議をすることができます。

    第二は、家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てをする方法です。

    失踪宣告は、不在者の生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、または戦争・船舶の沈没・震災などの死亡の原因となる危難に遭遇した者の生死がその危難が去った後1年間明らかでないとき(特別失踪)に、不在者(危難に遭遇した者)を法律上死亡したものとみなす制度です。

    死亡したものとみなされる時点が相続開始の時点よりも前であれば、不在者(危難に遭遇した者)は相続人ではなくなります。

    また、死亡したものとみなされる時点が相続開始の時点よりも後であれば、不在者(危難に遭遇した者)の相続人が不在者(危難に遭遇した者)に代わって遺産分割協議に参加することになります。

  • 親権者とその親権に服する未成年の子とが共に相続人である場合
  • このような場合、親権者が未成年の子を代理したことにして事実上1人で遺産分割協議をすることは、利益相反行為にあたるため認められていません。

    したがって、この場合には、家庭裁判所に「特別代理人選任」の申立てをします(未成年の子が複数いるときには、子1人ごとに1人の特別代理人が必要となります。)。

    特別代理人は、未成年の子のために親権者と遺産分割協議をすることができます。

  • 相続人の中に胎児がいる場合
  • このような場合、胎児の出生前においては相続関係が未確定の状態にあるので、遺産分割協議はできないとされています。

    したがって、遺産分割協議は胎児の出生後に行うことになります。

遺産分割協議書の作成

相続人間で遺産分割協議がまとまったら、協議の結果を書面に記しますが、この書面を遺産分割協議書といいます。

遺産分割協議書は必ず作成しなければならないというものではありませんが、相続財産の名義変更を行う場合などに必要となることがありますし、後のトラブルを防止するという意味においても、作成しておいた方がよいでしょう。

遺産分割協議がまとまらない場合

相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合(または協議をすることができない場合)、各相続人は家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てることができます。

単純承認・限定承認・相続放棄

考慮期間

相続人は、相続が開始すると、一定の考慮期間内に、単純承認・限定承認・放棄のいずれかを選択しなければなりません。

考慮期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月とされています。

ただし、相続財産の調査に時間がかかるなどの理由により、3か月以内に選択できない場合には、利害関係人または検察官は、家庭裁判所に考慮期間の伸長を申し立てることができます。

この考慮期間内に、いずれかの選択をしなかったときは、単純承認をしたものとみなされます。

法定単純承認

上述のとおり、考慮期間内に、単純承認・限定承認・放棄のいずれかを選択しなかったときは、単純承認をしたものとみなされますが、それ以外に、次のような行為をしたときも単純承認をしたものとみなされます。

  1. 相続人が、相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし、保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
  2. 相続財産の処分によって単純承認をしたものとみなされるのは、相続人が、自己のために相続が開始したという事実を知っていながら(予想しながら)、あえてその処分をした場合に限られます。

    また、限定承認または放棄をする前の処分に限られ、限定承認または放棄をした後の処分は、これに含まれません。

  3. 相続人が、限定承認または放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認(単純承認または限定承認)をした後は、この限りでない。
  4. 限定承認または放棄をした後の行為に限られます。

    なお、「ただし」以降は、単純承認をしたものとみなすことによって放棄の効力を失わせると、放棄によって相続人となった者が再び相続人でなくなるという事態に陥ってしまうため、そのようなことがないようにしたものです。

単純承認とは

単純承認とは、相続人が被相続人の権利義務を無制限に承継することをいいます。

積極財産(プラスの財産)だけでなく消極財産(マイナスの財産)も含めて、そのすべてを承継することになります。

単純承認は、各相続人が単独ですることができます。

限定承認とは

限定承認とは、相続人が相続によって得た積極財産の限度においてのみ被相続人の債務を弁済する責任を負って、被相続人の権利義務を承継することをいいます。

例えば、積極財産が1億円で、債務が1億5千万円であった場合、限定承認をすれば、債務のうちの5千万円部分については弁済する責任を負わなくてよいことになります。

積極財産と消極財産とを比べてどちらが多くなるのか判断しにくい場合に、限定承認を選択するのが有用であるといえるでしょう。

限定承認は、相続人全員が共同してしなければならず、各相続人が単独ですることはできません。

したがって、相続人の中に1人でも単純承認を希望する者がいれば、限定承認はできないことになります。

なお、限定承認をするためには、家庭裁判所への申述が必要となります。

放棄(相続放棄)とは

放棄とは、相続人が被相続人の権利義務を一切承継しないことをいいます。

積極財産も消極財産も、そのすべてを承継しないことになります。

積極財産と消極財産を比べて消極財産の方が明らかに多いと判断できる場合に、放棄を選択するのが有用であるといえるでしょう。

また、自分が放棄をすることによって他の相続人に財産を相続させようとする場合にも、放棄を利用することができます。

放棄は、各相続人が単独ですることができます。

なお、放棄をするためには、家庭裁判所への申述が必要となります。

放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます。

寄与分

寄与分の制度とは

寄与分の制度とは、相続人の中に被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与・貢献をした者(寄与分権利者)がある場合に、遺産分割にあたって、その者に法定相続分のほかに、寄与・貢献分に相当する額の財産を取得させ、相続人間の公平を図ろうとする制度をいいます。

寄与の態様

被相続人の財産の維持・増加に対して、次のような寄与・貢献をした者が、寄与分権利者となります。

  1. 被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付をしたこと
  2. 被相続人の事業に無償で奉仕した場合などが、これにあたります。

  3. 被相続人の療養看護に努めたこと
  4. 被相続人の看護を長期にわたって行った場合などが、これにあたります。

  5. それ以外の方法で寄与・貢献したこと

寄与の程度

寄与分権利者となれるのは、「特別」の寄与・貢献をした者に限られ、「通常」の寄与・貢献では足りません。

夫婦間の協力・扶助義務の履行や、親族間の扶養義務の履行などは、「通常」の寄与・貢献と評価されます。

したがって、例えば、配偶者の家事労働は、「通常」の寄与・貢献として、寄与分の対象になりません。

寄与分の決定手続

寄与分は、原則として、相続人間の自主的な協議で決定します。

協議で決まらなかった場合、または協議ができない場合には、家庭裁判所に寄与分を定める調停・審判を申し立てます。

寄与分権利者の相続分の算定方法

  1. まず、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から、寄与分権利者の寄与分の価額を差し引き、これを相続財産とみなします(「みなし相続財産」と呼びます。)。
  2. 次に、みなし相続財産を法定相続分などで按分して、寄与分権利者の仮の相続分を算出します。
  3. 最後に、この仮の相続分に先ほどの寄与分の価額を加え、これが寄与分権利者の実際の相続分となります。

AB夫婦に、子CDEがおり、Aが現金1,000万円を残して死亡したとします。
この場合に、Eの寄与分が100万円に決定されたとすると、各相続人の相続分はいくらになるでしょうか。

  1. みなし相続財産=1,000万円-100万円=900万円
  2. (Bの法定相続分は1/2、CDEの各法定相続分は1/6なので)
    Eの仮の相続分=900万円×1/6=150万円
  3. Eの実際の相続分=150万円+100万円=250万円
  4. Bの実際の相続分=900万円×1/2=450万円
    Cの実際の相続分=900万円×1/6=150万円
    Dの実際の相続分=900万円×1/6=150万円

特別受益

特別受益とは

特別受益とは、相続人が被相続人から受けた遺贈及び一定の贈与(婚姻・養子縁組のため、または生計の資本(学費・マイホーム資金・事業資金など)として受けた贈与)をいいます。

そして、これら遺贈や贈与を受けた相続人を、特別受益者といいます。

相続分を算定する際に、特別受益者が受けた遺贈や贈与を考慮しないとすると、特別受益者と他の相続人との間で不公平が生じます。

このような不公平を解消するため、民法では、特別受益者の相続分の算定について、特別な規定が設けられています。

特別受益者の相続分の算定(特別受益の持ち戻し)方法

  1. まず、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額(遺贈の価額を含みます。)に、特別受益とみられる贈与の価額を加え、これを相続財産とみなします(「みなし相続財産」と呼びます。)。
  2. 次に、みなし相続財産を法定相続分などで按分して、特別受益者の仮の相続分を算出します。
  3. 最後に、この仮の相続分から先ほどの贈与(遺贈)の価額を差し引き、これが特別受益者の実際の相続分となります。

AB夫婦に、子CDEがおり、Aが現金1,000万円を残して死亡したとします。
この場合に、Eが、Aの生前に、生計の資本として200万円の贈与を受けていたとすると、各相続人の相続分はいくらになるでしょうか。
   

  1. みなし相続財産=1,000万円+200万円=1,200万円  
  2. (Bの法定相続分は1/2、CDEの各法定相続分は1/6なので)
    Eの仮の相続分=1,200万円×1/6=200万円
  3. Eの実際の相続分=200万円-200万円=0円
  4. (残っている1,000万円を、「B:C:D=1,200万円×1/2:1,200万円×1/6:1,200万円×1/6=3:1:1」で按分します。)
    Bの実際の相続分=1,000万円×3/5=600万円
    Cの実際の相続分=1,000万円×1/5=200万円
    Dの実際の相続分=1,000万円×1/5=200万円

特別受益の評価

特別受益としての生前贈与については、それが相続開始前のものであるため、その価額評価の基準時をいつにしたらよいのかが問題となりますが、相続開始の時が基準となると解されています。

したがって、例えば、贈与当時1,000万円であった土地が相続開始時に1,500万円であったとすれば、1,500万円として評価します。

金銭の贈与については、贈与当時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額で評価します。

また、受贈者(贈与を受けた人)の行為によって、贈与の目的である財産が滅失し、またはその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなして評価します。

したがって、例えば、受贈者が贈与の目的である財産を取り壊したり失火などによって滅失したりした場合(売却なども含みます。)でも、贈与当時の状態のままであるものとみなして評価します。

受贈者が贈与の目的である財産に増改築を施したり一部を取り壊したりして価格の増減があった場合にも、同様となります。

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みなも行政書士事務所
代表者 行政書士 河口 良伍
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